農大式簡易土壌診断キット「みどりくん」を使ってみよう
先ずは、農大式簡易土壌診断キット「みどりくん」の技術資料と、「みどりくんN」の使い方動画をご覧下さい。その後で、解説をご覧下さい。
[解説]リアルタイム分析と本格的分析を使い分ける土壌診断分析
東京農業大学 名誉教授
全国土の会 会長
後藤 逸男
1.化学分析だけが土壌診断ではない
よい土とは、物理性・化学性・生物性が整った「三味一体の土」とよくいわれる。まさにそのとおりだが、作物の根から見れば、土の中に根を拡げて、水と酸素それに養分を吸収して、植物体を大きくし、茎葉をしっかりと支えることだ。根を活性化させるには、先ず土の「水はけ」と「水持ち」がよくなるように、しっかりと団粒構造を発達させる。団粒構造は土の粒子どうしがくっついてできるので、そのための「のり」が必要になる。有機物を施用すると土壌動物や微生物がそれを分解し、その過程でのりができる。納豆のねばねば物質はその一例だ。また、団粒構造を発達させるには、土の適度な乾湿の繰り返しも重要で、そのためには下層土の硬さを適度に保つことも大切である。そのような土の物理性を調べるには、深さ40cm程度の小さな穴を掘り、作土と下層土の状態を目と手で、しっかりと観察する。それが、土壌診断の第一歩である。
土の物理性とは違って、土のpHや塩類濃度、土の胃袋の大きさ(陽イオン交換容量)、養分量などの化学性は、土を見ても、触っても、舌でなめてもわからない。そのために土の化学分析が必要になる。農家の中には、「全国土の会」やJAなどの土壌診断室に頼むと、時間がかかるので自分で分析するという人も多いが、土の化学分析(土壌診断分析)は、人の健康診断と同じだ。体温や血圧くらいは家庭でも簡単に測れるが、血液検査ができるだろうか。人間ドックに相当する土壌診断室での化学分析と畑やハウス内で農家自身が行うリアルタイム土壌診断分析の両方をうまく使い分けてこそ、本格的な土壌診断分析だ。
生物性のよい土とは、「土の中に生息する多種多様な動物や微生物が豊かに暮らせる住環境と食環境が整った土」で、そのような環境を作るには、動物や微生物の住み家となる団粒構造を作って化学性を整え、おいしい「えさ」を与えることである。土壌動物のえさは全て有機物、微生物のえさも大部分が有機物であるが、一部の微生物は無機物を食べる。そのためには、有機質肥料や堆肥のような有機物ばかりではなく、化学肥料のような無機物も微生物のえさとして与えた方がよい。植物は自分の根の周りに微生物を集めるために、糖やアミノ酸などの有機物を分泌し、その種類は植物の種類により異なる。微生物にも好き嫌いがあるので、毎作同じ作物を連作すると、分泌物が片寄ってしまい、特定の微生物が増殖する結果となる。その中に、フザリウムのような植物病原菌が含まれていると、しだいに病原菌密度が高まり、土壌病害が発生する。これがいわゆる連作障害のひとつだ。
穴掘りでわかる土の物理性、化学分析でわかる土の化学性に比べて、土の生物性は見えにくい。最近では、土の中の遺伝子解析などにより生物性を数値化する試みもあるが、どこまで実用性があるかは未知数である。土の物理性と化学性を整え、適切な有機物補給と土壌診断分析結果に基づいた土壌改良と施肥管理、それに輪作の確立により、自ずと生物性もよくなる、それが筆者の基本的考えだ。
2. 硝酸態窒素は「みどりくんN」でリアルタイム分析
土の化学性を把握するための土壌診断分析にはさまざまな項目がある。硝酸態窒素やpH、電気伝導率などのように、土の中で増減が著しい項目については、迅速に結果を知る必要がある。作物栽培途中で窒素の追肥の有無を判断したい場合、土壌診断室に分析を依頼していたのでは間に合わない。そこで、自分でリアルタイム分析を行う。栽培途中では穴は掘れないので、写真3,4のような土壌診断スコップがお勧めだ。作土に差し込んで一回転すれば、正しく土を採ることができる。
リアルタイム分析用器具にもさまざまあるが、農大式簡易土壌診断キット「みどりくん」が最も簡単・迅速だ。「みどりくんN」では、たった5分でpHと硝酸態窒素が分析できる。試験紙の色を標準カラーチャートと見比べる超アナログ方式だが、園芸土壌には実用価値がきわめて高い。
リン酸は土の中でほとんど移動しない、また窒素やカリに比べて作物への吸収量も少ないので、可給態(有効態)リン酸の数値は1年や2年では、大きく変化することはない。交換性カリはリン酸より変化が大きいが硝酸態窒素ほどではない。交換性石灰や苦土の経時変化はカリより少ない。すなわち、pHと硝酸態窒素、電気伝導率以外の項目は、年に一回程度の分析でもよいということだ。もちろん、分析回数を重ねることに無駄はない。リアルタイム分析は、迅速に結果を得ることができるが、あくまで簡易分析である。一方、最近の土壌診断室では、ICP発光分光分析装置や自動化学分析装置など本格的分析機器の導入が進んでいて、リアルタイム分析では困難な微量要素の分析まで対応できるようになっている。緊急分析を要する項目を農家自らがリアルタイム分析を行い、その他の項目については土壌診断室に依頼する。たとえ分析に日数を要したとしても、施肥設計を立てるのに大きな支障とはならないはずだ。
作物作付前の穴掘りから始まり、土壌断面の観察、化学分析用土壌の採取、リアルタイム土壌診断分析と土壌診断室での分析、そして最も大切なことは、それらの結果から土壌改良対策と施肥設計を農家自らが作る。栽培途中には、必要に応じて土壌診断スコップを用いて土を採取し、リアルタイム土壌診断分析を行うことで、一連の土壌診断が完了となる。
なお、農大式簡易土壌診断キット「みどりくんN」の相棒である「みどりくんPK」では、リン酸とカリのリアルタイム分析ができるが、水溶性リン酸とカリで可給態リン酸や交換性カリとは異なるので注意が必要だ。この「みどりくんPK」はリン酸やカリが過剰になりがちな園芸土壌が主な対象となる。
★農大式簡易土壌診断キット「みどりくん」と土壌診断スコップは「東京農大発(株)全国土の会」でも購入できます。
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