東京農大発(株)全国土の会は大学発のベンチャー企業です

「全国土の会」の土壌診断分析法

東京農業大学 名誉教授
全国土の会  会長
後藤 逸男

1. はじめに
筆者が2015年3月まで40年間在職した東京農業大学土壌学研究室で最初(1970年代)に行った研究が「迅速で正確な土壌診断分析法の開発」でした。その当時、土壌診断分析には使われていなかったICP発光分光分析法やFIA(フローインジェクション分析法)などを活用して、「旧東京農大式土壌診断システム」(図1)を構築しました。
1980年代からは、その土壌診断システムを使って全国各地の野菜や花卉生産地の土壌診断調査を行い、その中でJAや肥料商などの土壌診断室では肥料や土壌改良資材を売らんがための土壌診断分析が行われることが多く、その結果を農家が正しく活用していないこと、分析数値を理解できる農家があまりにも少ないことなどを実感し、平成元年(1989年)に農家のための土と肥料の研究会「全国土の会」を立ち上げました。そして、「全国土の会」では、会員からの要望に応じて土壌診断分析を東京農業大学土壌学研究室に委託していました。東京農業大学土壌学研究室では、「全国土の会」会員からの土壌(年間約1,000点)だけではなく、研究室内での卒論や修論研究目的などを含めて、年間数万点の土壌診断分析を行ってきました。その後、さらに土壌診断分析の迅速化・効率化を高める目的で新規土壌診断分析法の研究を進め、2010年には現在の「東京農大式土壌診断システム」(図1)を開発しました。
2015年3月に筆者が東京農業大学を定年退職し、同年4月から大学発ベンチャー企業として「東京農大発(株)全国土の会」を起業しました。それ以降、「全国土の会」の事務局を「東京農大発(株)全国土の会」に移し、会員からの土壌診断分析は新たに設置した「東京農大発(株)全国土の会 土壌診断室」で行うことにしました。起業後の約1年間の準備期間を経て、2017年4月より土壌診断分析だけではなく堆肥や植物体の無機成分分析などの分析態勢が整いました。

図1

2. 「全国土の会」の土壌診断分析法は「東京農大式土壌診断システム」が基本
「全国土の会」の土壌診断分析では、「東京農大式土壌診断システム」を基本として分析を行っています。肥料分析や有害成分などの環境分析とは異なり、土壌分析法には公定法がありません。一般に行われている分析法を一般法と言いますが、「旧東京農大式土壌診断システム」がその典型です。その従来法をさらに迅速化・省力化した分析法が「東京農大式土壌診断システム」(図3)です。
図2左のように従来の一般法では、分析項目に応じて多種類の抽出溶液を用いるため時間と手間を要します。そこで、図2右のように単一の抽出溶液を用いて多成分の多量要素を抽出し、1あるいは2種類の分析機器で各成分を測定する方法を一液抽出法あるいはマルチ抽出法といいます。現在では数種類の方法が提案され、そのひとつが筆者らの1M/L塩化ナトリウムよる抽出方法です。
この方法で、土壌から石灰・苦土・カリ・リン酸・アンモニア態窒素・硝酸態窒素・硫酸イオン・マンガン・アルミニウムを抽出し、ICP発光分光分析装置とディスクリート型自動化学分析装置で定量します。

図2

図3

(1)pHと電気伝導率(EC)
pH(H2O)と電気伝導率(EC)の分析法は、従来法通りです。液比=1:5の土壌懸濁状態で電気伝導率、続いて同じ懸濁液でpH(H2O)を測定します。水懸濁液のpHを測定する際には、懸濁効果という測定誤差を生じることが知られています。そこで、「全国土の会」ではよく撹拌した土壌懸濁液にpH電極を容器の底まで沈めて、1分後の値をpH(H2O)として、小数点以下1桁まで表示します。
pH(H2O)の他にpH(NaCl)を表示します。pH(NaCl)とは、下記(2)の交換性陽イオン測定の際の土壌と1M/L塩化ナトリウム溶液懸濁液(液比=1:20)のpHです。通常の土壌ではpH(H2O)-pH(NaCl)=0.5~1.0ですが、高pH土壌など特殊な土壌では逆転することもあります。このpH(NaCl)はpH(KCl)に近い値と見なして下さい。

(2)交換性陽イオン
従来法では、石灰・苦土・カリの交換性塩基を1M/L酢酸アンモニウム溶液で抽出していましたので、1M/L塩化ナトリウム抽出法による石灰・苦土・カリ抽出量は従来法による値より小さくなります。しかし、両者には高い相関性(図4)があることがわかっていますので、1M/L塩化ナトリウム溶液による抽出量を従来法による値に補正して表示します。ただし、交換性マンガンについては補正せずに表示します。そのため、従来法よりやや低めに表示される傾向があります。

図4図5

(3)無機態窒素(アンモニア態窒素・硝酸態窒素)
従来法では、1M/L塩化カリウム溶液を用い、液比1:10でアンモニア態窒素と硝酸態窒素を抽出します。本法ではカリウムイオンより陽イオン交換力の弱いナトリウムイオンで抽出しますが、液比を1:20としています。そのため、アンモニア態窒素抽出量は従来法とほぼ同等です。硝酸態窒素は陰イオンであるため抽出溶液が異なっても抽出量はほぼ同等です。そのため、本法によるアンモニア態窒素と硝酸態窒素抽出量の補正は行っていません。

(4)リン酸
1M/L塩化ナトリウム溶液によるリン酸抽出量は、従来の可給態リン酸(トルオーグ法)に比べるとごくわずかに過ぎません。そこで、本法では従来のトルオーグ法による可給態リン酸分析を行い、1M/L塩化ナトリウム溶液による値と並記しています。例えば、可給態リン酸が100mg/100g以上あるいは1M/L塩化ナトリウム溶液によるリン酸が5mg/100g以上であればリン酸過剰土壌と見なすことができます。

(5)硫酸イオン
従来の土壌診断分析では硫酸イオンが含まれていません。そのため、硫酸イオンについては1M/L塩化ナトリウム溶液による抽出液中の硫黄をICP発光分光分析法で測定し、硫酸イオン(SO42-)として表示します。

(6)陽イオン交換容量(CEC)
土壌の保肥力を示す陽イオン交換容量(CEC)は土壌診断分析項目の中で重要な値です。その分析法の原点はセミミクロショーレンベルガー法という方法ですが、その分析には多大な手間と特殊な装置を要します。そこで筆者らは、遠沈管を用いたバッチ式測定法を開発し、従来法で用いていましたが、土壌診断分析の迅速化にブレーキをかける項目でした。
本法では、陽イオン交換容量の分析を止めて、上記の1M/L塩化ナトリウム溶液で抽出した8成分から陽イオン交換容量を推定することにしました(図6)。このような推定法による陽イオン交換容量の表示はこれまでも多くの土壌診断室で用いられてきましたが、本法のように陽・陰両イオン8成分から推定する方法は他には見当たりません。
約900点の土壌の従来法とこの推定法による陽イオン交換容量には図7のように高い相関性が認められています。

図6

図7

(7)可給態微量要素
微量要素の分析法については、畑・施設と水田土壌で異なる抽出法を用いています。
畑と施設土壌では、ホウ素以外の微量要素をDTPAというキレート試薬、水田土壌では0.1M/L塩酸により抽出し、ICP発光分光分析法で測定します。分析項目は、鉄・マンガン・亜鉛・銅ですが、オプションでニッケル・モリブデンの分析もできます。
ホウ素については、0.01M/L塩化カルシウム溶液を用いたオートクレーブ加熱処理による抽出を行い、ICP発光分光分析法で測定します。なお、水田土壌ではホウ素の分析は行いません。

(8)その他の分析項目
水田土壌では、pH6.2リン酸緩衝液抽出法による可給態ケイ酸とジチオナイト-クエン酸塩還元溶解法による遊離酸化鉄の分析を行います。

(9)「全国土の会」では行わない土壌診断分析項目
「全国土の会」の土壌診断分析では、原則として腐植とリン酸吸収係数の分析をあえて行いません。その理由は、次のとおりです。

①腐植
土壌中の腐植は土の色を見れば、およそ判断可能です。例えば、土色が真っ黒であれば10%程度以上、黒ければ5~10%、やや黒みがあれば3~5%、黒みがなければ3%以下です。
また、腐植を分析しても施肥設計にはほとんど利用できません。熱心な農家の中には、腐植含有量にこだわり、測定値が一般的な基準の3%以下であれば、完熟した家畜ふん堆肥を大量に施用して腐植を増やそうとする人がいます。その結果が、リン酸やカリ過剰を助長してしまうことが多く見受けられます。そのような、間違った対処法を避けるために「全国土の会」では腐植の分析を行いません。

②リン酸吸収係数
リン酸吸収係数は第二次大戦後の開拓事業で土壌改良のためのリン酸施用量を決定するための分析法です。戦後70年以上を経過した現状の農耕地では、リン酸過剰土壌が増加しています。今や、リン酸吸収係数の分析を必要としない農地が増加している現状にあります。
もう一つの理由が、現在多くの土壌診断室で行われているリン酸吸収係数の測定法です。pHが高く交換性石灰が多い土壌のリン酸吸収係数ををリン酸アンモニウム法で分析すると、可給態リン酸の大小にかかわらず1500以上の値を示すことも少なくありません。土壌中のカルシウムイオンとリン酸添加液流のリン酸イオンが反応してリン酸カルシウムとしてリン酸を固定するためです。そのような結果が出るとリン酸過剰土壌に無駄なリン酸肥料が施用されることになりかねません。
なお、「全国土の会」では新規開発農地などでのリン酸施用量決定のためのリン酸吸収係数の測定も対応しますが、分析法はリン酸アンモニウム法ではなく、0.01M/Lリン酸溶液をリン酸吸収液とする正リン酸法です。この方法では、上記のようなカルシウム型リン酸の固定を生じません。

(10) 従来法による値と同等
上記のように、「全国土の会」で実施している土壌診断分析法は、pH(H2O)・電気伝導率・可給態リン酸などの一部を除き、一般の土壌診断室の方法とは異なっています。分析法が違えば当然分析値も変わってきます。ただし、「全国土の会」の土壌診断分析ではできる限り従来法のよる値に近づける努力をしています。また、分析試料の不均一さが避けられない土壌診断分析では変動は付きものです。それらの点を考慮すれば、「全国土の会」で行う土壌診断分析では、一般の土壌診断室の分析値とそのまま比較して何ら問題がありません。
さらに、土壌診断分析で大切なことは、絶対値ではなく相対値を重視することです。自分が依頼する分析機関をここと決めれば「浮気をせず」常に同一の分析機関で分析を行い、その変化を見極めることが最善です。

3. 最新の化学分析用分析装置で分析を行う「全国土の会」の土壌診断分析
「東京農大発(株)全国土の会」の土壌診断室(写真1,2)で使用する主な土壌診断分析装置は次のとおりです。

写真1

写真2

(1)ICP発光分光分析装置:島津製作所(株) ICPE-9820(写真3)
土壌中の交換性陽・陰イオンや微量要素の分析を行います。

写真3
(2)自動化学分析装置:富士平工業(株) 高速土壌養分自動分析装置SNA-24i(写真4)
土壌中の無機態窒素(アンモニア態窒素・硝酸態窒素)・可給態リン酸などの分析を行います。

写真4

 

お気軽にお問い合わせください TEL 03-3426-1771 お急ぎの方は携帯まで:090-5551-6663

  • Hatena
  • Google+
PAGETOP
Copyright © 東京農大発(株)全国土の会 All Rights Reserved.